分析は九分どおり終了し現在報告書を執筆中である。報告書は東大出版会から『累積債務問題の歴史的構図(仮題)』として1994年中に出版の予定であり下記のような構成をもつ。第1章 途上国への資金フローと経済発展-国際資金移動の理論と現実;第2章 戦後国際金融市場における途上国-1970年代に何が生じたか;第3章 途上国の開発戦略と債務累積-東アジア、南アジア、ラテンアメリカ、アフリカの比較;第4章 債務危機と世銀、IMF-構造調整政策の評価;第5章 結論(途上国、旧社会主義国への資金還流、金融支援のあり方)。 いくつかのブロードな仮説が導出されたがそのいくつかを以下に記しておきたい。(i)債務問題の借手国の側の原因としては、直接的には貿易政策と財政政策の失敗があげられるが、その背景には開発における政府の役割に関する不適切な認識と農業部門の軽視という基本的問題がある。(ii)国際金融市場においては商業銀行のシ・ローンが1980年代にいわゆる市場の失敗に陥ったことが重要であるが、債務のオーバーハングという視点からは1940年代末以来の冷戦下の援助競争の役割を無視することはできない。(iii)IMFと世銀の債務危機対策は、途上国のディフォールト・オプションを封じたという意味で開発のリスクを途上国に一方的に押しつけたという側面を有する。
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