本年度はこれまでの研究の中間的なとりまとめを次のふたつの方向にもとづいて行った。第1に、92年以来実施してきたミクロレベルでのロシアおよび東欧諸国における企業の構造、行動にかんする実証分析を総括して、企業と国家の相関関係、企業内における意思決定をめぐる労使関係を明かにした。つまり、企業の行動、経営者の動機に効率性が反映せず、リストラが進まない原因として企業内での集団主義と企業・国家間での温情主義の惰性が存することを明かにしている。この研究は95年9月からのバ-ミンガム大学ロシア東欧研究センターにおいてロシアの金融制度と企業・国家の相関の研究のテーマで共同研究し、セミナーの報告・討論を行っている。同研究は体制転換諸国への経済援助が資金や知的支援だけでは十分は効果を有せず、長期的視野から経済システムの諸制度、慣習、価値観を相互理解することが重要であることを提言している。この企業レベルにおける市場化の到達点にかんしては、本年度の国内の専門の学会(比較経済体制学会、比較経営学会)の共通論題において報告し(国外の学会においても96年6月に報告を予定)、論文の形式で公表している。 第2に、これまで分析してきたソ連企業の研究と現在のロシアの体制転換過程の企業研究を結びつけ、移行経済のミクロ分析として取りまとめる作業である。ソ連邦の枠内で形成された企業が非効率性を内部化し、その溶解の過程がすでに80年代から存していたこと、体制転換はこの溶解を市場適合に直接に導かず、市場と官僚的調整の結びついた状況を生みだすことを明かにしている。この研究は図書『ロシア経済・経営システム研究』の形式で結実している。
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