本研究の目的はロシア・東欧における民営化政策の制度と実態を実証的に分析することによって、ミクロレベルでの体制転換の意味とそれに対する西側の経済支援の処方箋を検討するというものである。 3年間を通じて次の点を明かにしている。第1に、ロシアの民営化の政策と制度を明かにし、民営化が市場と企業に及ぼす効果を分析した。この分析では東欧の民営化との比較をも行っている。民営化がインサイダー経営者を形成し、労働者への優先的な条件は有効に作動していないことを明かにしている。第2に、企業構造と行動の変化を研究した。民営化が所有権の変更に焦点をあてているが、企業構造の変化からリストラの効果を分析した。企業は市場に適合的な行動を示す同時に、市場に適合せず補助金を求める行動をとり、その行動の背景には企業内での安定的な労使関係、国家の官僚的調整の温存傾向が存することを明かにしている。企業の意思決定にかかわって、モデル化を試みた。上記の2点は移行諸国への経済支援は進化的に実施されなければならないことを提言している。第3に、企業再編の最新状況として資本市場、金融・産業グループの実証分析に着手した。この研究は世界的にまだ萌芽的でイギリスバ-ミンガム大学教授との共同研究の途上にあるが、移行諸国の経済システムの特殊性を明かにし、経済支援策を見直す素材になると考えられる。以上の分析結果はすべて内外の学会において口頭報告している。 この期間中、現地企業調査をロシア、ドイツにおいて実施し、とりわけロシアでは定点観測として複数年にわたり企業経営の実態調査と現地研究者、実務家へのインタビューを行っている。最後に、これまでの研究とこの3年間の研究をとりまとめて、単著『ロシア経済・経営システム研究』の形ですべての研究を公表している。
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