研究概要 |
平成5年度においては, (1)前年度までの研究の総括として,4月に著書『アントウェルペン国際商業の世界』(同文舘)を刊行した。 次いで, (2)近代前期におけるヨーロッパ世界経済の形成の初期の契機として重要な意義を有するポルトガルの対アジア香料交易とアントウェルペン国際市場との関係をイタリア商人,特にアファイターディ家との関わりで検討し,『一橋論叢』に論文「ポルトガル国家の香料政策とヨーロッパ経済」を発表した。そこで明らかにされた重要な事実はポルトガルによるアジアの香料交易は王室独占の形態を取りつつも,この独占交易を維持することができず,私貿易(民間商人の取引)を取り込まざるをえないものであったということである。また, (3)『文経論叢』に掲載の論文「「シェルと問題」とアントウェルペン市場(上)」では,1609年までのシェルト(スヘルデ)河航行問題を検討した。そこで得られた成果は,独立過程にあったオランダが自国経済の利害のために,アントウェルペン国際市場の復活を望まず,そのためにシェルト河を閉鎖したという事実であり,ここに未だ完全な意味においてではないにせよ,国民経済の形成という当時の時代的推移を読み取ることができる。 さらに,未だ成果の公表に到っていない研究成果として,アントウェルペン市場を中心とした16世紀のヨーロッパ国際交易網の再構成という課題に取り組んだ。当時のヨーロッパ経済を特質づけるのが,商品と商人,財とサービスは国境を越えて-国境とは無関係に関税徴収はなされていたが-移動していた。この事態についての認識を踏まえて,本研究費によって入手した図書文献等により,アントウェルペン市場を起点とした商品と商人の動向を現在実証的に検出しつつあるところである。
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