1.トマス・デイヴィスのウィルトシァに関する農業報告書はいまではあまり注目されていないけれども、その報告書は、農業上の地域差を正確にとらえて記述しており、地域をハンドレドといった行政上の単位で区分したアーサー・ヤングよりも、自然環境の認識において鋭いものであった。したがって、ウィリアム・マーシャルが、実務家による報告として高く評価したのも当然であり、その内容はこれまでの18世紀末から19世紀初めのイギリス農学像とは異なる側面を照射するものであることが判明した。 2.農書に出てくる聖書の文言を手がかりに、ロックの「所有権」論とアメリカのピューリタンの「土地所有権」論との関係を分析した。(1)その結果、ロックは、労働に基づく「所有権」論を開示した最初の政治理論家だと評価されているが、かれの理論は、アメリカのピューリタン、とりわけジョン・ウィンスロップによって展開された「土地所有権」論の影響を受けている、と考えられる。たとえば、ウィンスロップは、つぎのように言っている。「ドタンでもそしてほかのあらゆる場所でも、人びとは、かれらが自分自身の勤労によって専有したものでなければ、なにをも自分自身のものと考えなかった」、と。(2)芝草の節に登場する召使いに関して論争があるが、その論争は、ロックの意図とかけ離れたものである。というのは、そこでは労働に基づく所有権を論証しようとしている段階であり、まだ貨幣が導入されておらず、召使いは、主人の家族の一員として登場しているに過ぎないのである。
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