研究概要 |
1993年度においては、いわゆる『住宅組合に関する友愛組合登録長官の統計』のうち1895年版と1905年版を用いて、前者で約2300の住宅組合、後者では約1700の住宅組合について、会員数、年間収入、拠出金額、融資額、預金等の項目に関してデータベースに収録した。このデータベースのコンピュータ処理によって、主として北部・中部・ロンドン周辺・東部・南西部・ウエールズの五つの地域毎の分布や両年度間の時系列変化のあらましを明らかにし、その上で通常の継続組合及び当座組合と、19世紀末に急速に増加したスター・バウケット型組合をはじめとするプロモーター型組合との経営規模における大きな差異を検出し、両者の質的相異とそれに基づく対立・抗争の原因を明らかにした。その詳細については「イギリス住宅組合の歴史構造」(『阪南論集 社会科学編』第29巻第3号、1994年1月)に発表した。ただし、この処理を通じて当座組合と継続組合の区別や住宅組合の所在地に関して二つの統計の間に存在する齟齬等が発見されたので、より精密化された分析を現在継続中でる。 またこのような研究をもとにして、今日の「住宅組合産業」とは区別されるいわゆる「住宅組合運動」としての住宅組合全体のあり方--すなわち投資会員と融資を求める会員の人的な一致、あるいは少なくとも利害の一致を前提とした非営利的な「互助機関」という性格規定--が19世紀末〜20世紀初頭の変動期を通じて、いかにして、またいかなる形態で保持されたかという問題を、1874年と1894年住宅組合法に体現された住宅組合行政の変化、およびスター・バウケット型組合と通常組合との対立・抗争を手がかりにした論文「19世紀後半におけるイギリス住宅組合」(『社会経済史学』59巻3号,1993年9月)を発表した。
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