この研究では、利子率の期間構造を分析することを通して、最近のわが国長期国債流通市場の構造を解明することを試みた。具体的には、ベクトル値自己回帰モデル(VAR)でモデルを定式化し、計測の方法としては、最近急展開を見せている共和分(cointegration)検定のうち、Engle and Granger(1987)の方法を拡張し、多変数のVARを取り扱うJohansen and Juselius(1990)の方法を用いてテストを行い、1985年秋の先物取引開始から1990年までの期間における国債流通市場における利子率の期間構造について、純粋期待仮説が成立するか否かのテストを行なう。この期間を選んだのは、先物市場発足により現物市場の構造変化が予想されるためである。 純粋期待仮説を長期利付債の所有期間利回りと短期利子率の関係のタームで定式化し、計測には残存期間が3年から9年までの利付国債の所有期間利回りと手形レートのデータを用いる。利付国債現物の全銘柄の1期間の所有期間利回りの期待値が期待形成に関する不偏性の条件を満たすと仮定した上で、短期利子率とn個の所有期間利回りの組み合わせが、純粋期待仮説から導かれる共和分ベクトルに関する2制約を満たすか否かを検定することによって、純粋期待仮説の正否をテストする。計測の結果は、ほとんどの残存期間について純粋期待仮説が棄却されることを示している。 なお今後、長期利子率に対するマクロ的要因、たとえばインフレーションなどの影響も視野に入れる研究を行う予定である。
|