まず利子率の期間構造を分析することを通して、最近わが国長期国債流通市場の構造と効率性を解明した。具体的には、ベクトル値自己回帰モデル(VAR)でモデルを定式化し、計測の方法としては、共和分検定のうち、多変数のVARを取り扱うJohansen and Juselius(1990)の方法を用いてテストを行い、85年の先物取引開始時から90年までと、77年から最近時までの2つの期間における国債流通市場における利子率の期間構造について、純粋期待仮説が成立するか否かのテストを、残存3年から9年までの利付国債の所有期間利回りと手形レートのデータを用いて行った。利付国債現物の全銘柄の1期間の所有期間利回りの期待値が期待形成に関する不偏性の条件を満たすと仮定した上で、短期利子率と所有期間利回りの組み合わせが、純粋期待仮説から導かれる共和分ベクトルに関する2制約を満たすかを検定することによって、純粋期待仮説をテストした。計測の結果は、ほとんどの残存期間について純粋期待仮説が棄却されることを示した。 次に利子率の期間構造と利子率と期待インフレ率の関係を分析した。VARモデルを定式化し、Johansen and Juseliusなどの方法を用いてテストを行い、77年の市場の実質的な成立時から最近時までの期間における国債流通市場における利子率の期間構造について、期待インフレ率の変化分に等しいだけ利子率が変化するとのFisher仮説が成立するか、成立しないならその代替的な仮説のうちのいずれがより適切であるかのテストを行なった。観察不可能な期待インフレ率をカルマン・フィルターを使って推計した上でのテストによれば、77年から93年半ばまでの期間では国債利回りにはFisher仮説は成り立たないことが示された。また暫定的な推定結果によれば、期待インフレ率の変化分よりも大幅に利子率が変化するとのDarby仮説が一部の残存期間の利回りについて成立した。
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