本研究は、従来の地価形成モデルにおいて看過されてきた土地のオプション性に焦点を当てた理論モデルを構築し、その理論モデルに基づき1980年代の東京都区部の地価上昇がどのような要因によって説明されうるのかを現実の地価データを用いて実証分析したものである。その結果、地価水準、地価変動、土地利用について、現実に観察される状態を合理的に説明するモデルの構築するという点に成果を挙げた。研究成果は、より具体的に以下のようにまとめられる。1.土地のオプション的性格が複数の土地用途の存在、土地利用の非可逆性から発生することを不確実性下の動学的地価形成モデルを構築することにより明らかにした。2.モデルに基づき、各用途の収益性、用途間の収益性の差異、収益性に存在する不確実性、市場利子率の変化などが地価の水準、変動に与える効果を導出した。3.以上の分析により、(1)バブルが存在しない下でも地価がファンダメンタル地価を上回って上昇するメカニズム、(2)収益に存在する不確実性が地価変動のみならず地価水準に影響を与えるルート、(3)地価には上昇期と下降期とでその変動に非対称性が存在するメカニズムなど、従来のモデルでは説明されていない地価変動の特徴を説明した。4.モデルの現実の地価変動への適合度をみるため、東京都区部住宅地のデータを用いて実証分析を行った。そして、1988、1989年段階で、土地のオプション価値が土地のファンダメンタル価値と現実価格の差のうち約半分を占める大きな要因となっているとの結果を示した。
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