本研究の目的は、<移民社会を抱えた先進福祉国家>と<移民を送り出す途上国側>との相互関係を、財政政策を媒介にして考察するとであった。今年度は、イギリスとインド・スリランカを中心とした統計整理と文献収集に重点をおいて、一定の成果をあげることができ、また研究の前提となるべきイギリスの福祉国家財政およびインドの構造調整政策の全体的動向についても、後出(次項)の形でまとめることができる。その中で、まずサッチャーは、1980年以降、マネタリズムに基づく経済政策を次々と実行してきたが、80年代後半になって、サッチャリズムの一貫性を貫けなくなった点を明らかにした。財政赤字とマネーサプライの直接的関連の喪失、金利政策重複への転換、サプライサイド政策の失敗(経常収支の恒常的赤字への転落)と伝統的な政策的ジレンマなどの諸現象を見出すことができるからである。次に明らかにすべき点は、こうしたイギリス福祉国家財政の動向を前提にして、地方財政政策の変化と移民社会のインパクトについて検討を進めることである。 他方、インドについては、自由化政策=構造調整政策を推進してゆく上で、国際収支の脆弱性を支えるために、先進国および湾岸地域からの移民送金が不可欠になっている構造を明らかにした。また構造調整政策は、短期的な安定化政策としては成功しているものの、中期的には、資本支出の削減と州財政の悪化に伴って、インフラや教育・衛生・貧困対策などの支出が低下し、貧困層の拡大をもたらしてゆく可能性を秘めていることも明らかにした。こうした状況は、途上国側に移民を輩出してゆく誘因を与え続けるであろう。今後は、州財政に分析を進めてゆくことが必要であると考えている。
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