本研究の目的は、〈移民社会を抱えた先進国〉と〈移民を送り出す発展途上国〉との相互関係を、財政政策を媒介にして考察することであった。本年度の研究は、発展途上国財政に重点を移し、その際、中央財政にとどまらず地方財政をも射程に入れることを目標にした。そのために統計整理と文献収集も、発展途上国問題やそれを取り巻く国際経済的条件に関するものに重点をおいた。その結果、まだ不十分とは言え、途上国の地方財政やそれを取り巻く基礎的条件などについて考察を加えることができた。また先進国の地方財政に関しても、移民社会問題との関連で、不動産課税に依存した地方分権化論の限界について分析することができた。その成果は、後出の通りである。 今回、途上国の地方財政については、インド地方財政を対象にして分析を行なった。そこでは地方資本支出の削減と州財政の悪化に伴って、インフラ整備や教育・衛生・貧困対策などの諸分野において歪みが拡大していることが明らかになった。しかも統計的に観察すると、経済発展が相対的に低位なアジア諸国(例えばインド・パキスタン・バングラ・フィリピンなど)では、移民の大量輩出と移民送金によって、国際収支赤字のかなりの部分を埋め合せている。地方財政を含む財政政策の健全化が達成できない限り、経済発展の基礎的条件が整わず、移民労働者の送金が自由化政策をかろうじて支えているという悪循環構造は解消されないであろう。 アジア発展途上国の財政政策・地方財政の分析は、構造調整政策を推進してゆく上で不可欠になっているにもかかわらず、依然未開拓な分野である。今後は、もう1つのアジアの大国である中国をも含めて、途上国財政の研究を一層発展させたいと考えている。
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