研究概要 |
平成6年度・一般研究Cの研究成果報告書 1.平成6年度の研究は,まず,最近のアメリカで注意をひくダッチ・オ-クションによる自社株式取得の取得の普及の実態と,その実戦的・理論的意義を明らかにした。 2.自社株式取得の三つの主要形態-(1)伝統的な固定価格による公募方式(fixed pricetender offer)(2)ダッチ・オ-クションによる公募方式(dutch auction tender offer)(2)流通市場での自社株式取得方式-の特色とプレミアム格差を実証分析によって明らかにした。このプレミアム格差を説明する理論としては,シグナリング理論は非常に強力である。とくに,このシグナリング・アプローチによる,インサイダーとしての経営者の自社株式取得関連リスクとプレミアムの大きさとの相関の解明が非常にすぐれている。今年度の大きな成果の一つである。 3.しかし,シグナリング理論は,市場の自社株式に対する過小評価のシグナルとして自社株式取得を説明するが,それならば,相対的に株価引上げ効果の低いダッチ・オ-クション方式や流通市場での自社株式取得が,最近になって普及しつつある事実をどのように説明するのか。そこにシグナリング・アプローチの限界がある。このことが明らかになったことが,今年度の第二の成果である。 4.次年度は,これらの成果をふまえて,シグナリング理論を補強する諸理論の検討を試みたい。たとえば,フリー・キャシュ・フローの株主への還元手段として自社株式取得をとらえるエージェンシー理論や株主の異質性を強調する理論は,M&Aや会社乗っ取り防止効果との関連で興味深い。これらの理論的諸問題の掘り下げと,それらの整理と総合化は次年度の課題である。
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