平成5年度の研究成果を、以上の2つの論文にまとめ、公表した。 第1論文(A Model Analysis of Accounting Measurement)は、伝統的会計の認識・測定構造を理論分析的に検討することを目的としている。伝統的会計の認識・測定構造の特徴は、(1)いわゆる「取引」によって認識・測定対象が規定されること(取引アプローチ)、(2)現金および現金等価物の収入・支出という経済事象を「取引」として認識し、これを名目貨幣価値によって記録・計算すること(名目貨幣計算指向)、(3)以上の諸特徴が会計人の自由裁量を拘束していること(ふちどられた自由裁量性)にもとめられる。伝統的会計の認識・測定構造の安定性(stability)を支えているのは、これらの諸特徴である。 第2論文(利益測定システムの簿記的考察)は、第1論文で明らかにした伝統的会計の認識・測定構造を複式簿記システムに組込んだとき、その利益測定プロセスがどのように展開するかを検討したものである。その結果、伝統的会計における利益測定プロセスは、現金収支の価格総計の記録・計算・区分・集計のプロセスとして展開し、現金収支の原因事象(財・用役のフロー)は、現金収支の価格総計の区分の規準としてのみ当核プロセスにかかわることが明らかになった。 伝統的会計の認識・測定構造の安定性を支えている以上の諸特徴は、他方で、当該会計の硬直性の要因ともなっている。したがって、伝統的会計のもとでオフ・バランスとなっている項目を会計的に認識・測定するためには、これら諸特徴のいずれか(あるいはすべて)を希薄化させなくてはならない。かかる希薄化がどこまで、あるいはどのように可能であるかを検討することが、今後の課題である。
|