1992年に見つかったNGC4258の水メーザー高速成分は、速度が1000km/sと通常の水メーザーの高速成分より異常に大きく、更にいくつかの特殊な性質を持つが、これらの説明としての、銀河中心核を回る回転ディスクからのメーザー、または、ラマン散乱による周波数の偏移、などのモデルについて、観測的、理論的に研究を進めた。我々は、まず、プラズマ内のラマン散乱モデルの立場に立った場合、プラズマの密度や温度、あるいは、散乱前の水メーザー輻射の強度にどのような制限がつくのか、を調べた(Deguchi 1994)。この論文では、もしラマン散乱モデルが正しければ、NGC4258の水メーザー高速成分の輝線は、やや偏光しているであろう事が見出だされた。そこで我々は、アメリカ、ヘイスタック天文台の37m電波望遠鏡を使い、高速成分の偏光を測定した。2度の観測により、直線偏光度は20%以下であることが判明した(Deguchi et al.1995)。これらの結果は、メーザー雲の中で磁場による強いファラディー回転のために、偏光が消去される事を示唆する。三好等は、全米超超基線干渉計によるの高速成分位置測定の結果、高速成分は3ミリ角秒離れた位置から放射されていることを見出し(Miyoshi et al.1995)、また、アメリカのワトソンおよびワリンは、回転ディスクモデルを提唱し、速度と位置の間に回転による制限がつけられることを示したが、回転ディスクモデルでは、その運動はワープなどの複雑な運動を加えなければならず、また、青方偏移した成分の弱いことは説明できない等の欠点もあることが見出だされた。その他、天体物理に現われるメーザーの一般的な性質を調べるため、ソボレフ氏と共に、メーザーのポンプ機構(主としてメタノール)についての共同研究を行ない(Sobolev and Deguchi 1994ab)、また、インド天体物理学研究所のガンガダ-ラ氏とラマン散乱メーザーについての共同研究を行なった。
|