観測的宇宙論の基礎になっている宇宙モデルは、局所的な物質分布の非一様性を平均化した空間的に一様等方の時空である。局所的な非一様性を考慮する場合には現実的でない線形近似や、必ずしも一般相対論と整合性のない非常に単純化したモデルが用いられている。観測的宇宙論の理論的基礎を確立するためには、局所的に非線形、非一様な物質分布をもちながら大域的には一様、等方時空として記述される宇宙モデルを一般相対論のわくないで構成する必要がある。従来は重力場の強さとそれが変化するスケールに対してある制限のもとに、そのような宇宙モデルが構成されてきた。本研究ではさらにこの制限をゆるための方法を考案した。またこの構成法に固有の空間平均をより数学的に定式化した。このような方法に基づいて構成された現実的な宇宙モデルを用いて、重力レンズを記述する方程式の正当性を調べた。この方程式は、一様等方宇宙モデルとユークリッド的な幾何学に基づいて定式化されており、現実的な状況ではその正当性は明かではない。その結果、従来の方程式が成り立つ条件を導いた。さらに銀河団によって遠方の銀河がアーク状に変形する現象について、どの赤方偏移にどれだけアークが観測されるかというアークの統計を計算し、それによって宇宙モデルを決定する可能性を調べた。また大域的に非一様な宇宙モデルが重力レンズの観測から、どのような制限を受けるか、そして現在の宇宙論で大きな話題となっている宇宙年齢問題の解決の一つの可能性となりうるかを調べた。
|