今年度の研究において得られた主たる成果の概略は、以下の通りである。 末松は、超弦理論において期待される超対称性の柔らかい破れの持つ一般的な性質の解明と、そこで現れる破れの非普遍性の引き起こす様々な現象論的効果についての考察を行った。特に柔らかい超対称性の破れのCPを破る位相と中性子の電気双極子能率の関係の検討から、従来許されないと考えられていた大きな位相が中性子の電気双極子能率の実験の上限値に矛盾しないことが起こり得ることを指摘し、更にこのCP位相と宇宙のバリオン数の起源との関係について検討を進めた。太陽ニュートリノ問題を説明できる程度の小さなニュートリノ質量の実現は超弦理論の大きな現象論的課題のひとつである。この問題を超弦理論の有効理論として得られる余分なU(1)対称性とゲージングレット粒子を含む模型において考察し、小さなニュートリノ質量の実現可能性を指摘するとともに、その様な模型の宇宙論的特性の検討を行った。 久保は、ゲージ結合定数と湯川結合定数の統一のもたらす様々な現象論的特性の解明を系統的に実行した。この様な結合定数の統一を仮定した場合に高次補正の入った繰り込み群方程式を用いることにより、低エネルギー領域における多数の物理量について極めて良い精度で実験値を再現できることを示すとともにこれまで予言出来なかった物理量の予言を行うこともできることを示した。 以上の項目は当初の研究目的の重要な部分である。上記の項目に関する研究成果の一部をすでに口頭発表、研究論文で公表した。現在新たな成果を論文として準備しつつある。
|