最終年度の本年度は、本研究の重要な目的のひとつであった、完全拘束系の量子論の枠組みを完成させ、その整合性を数学的に厳密に証明した。その成果は次のように要約される。 i)古典論と同様、量子力学的ダイナミクスは拘束関数に対応する作用素h_αの生成する状態空間の線形葉層構造により決まる。 ii)運動の定数から、それの作るフォンノイマン代数Cの中心分解を用いてh_αを分離して得られる部分代数をBとすると、通常の量子論での物理的状態空間は、葉層構造に横断的なBの概約不変部分空間(IPAS)が対応し、量子論的ダイナミクスは異なるIPASの間の写像として表現される。 iii)CがタイプIのとき、このダイナミクスはユニタリ性を満足する。 iv)この定式化では、時間的変数は他の物理量と同様にオブザ-バブルとして含まれる。また、特別の時間変数を取り出すゲージ固定の操作が、量子論の枠内で可能で、このゲージ固定により、ダイナミクスは通常のシュレディンガー方程式(ないしハイゼンベルグ方程式)による記述に還元される。 v)ミニスーパースペースモデルより得られる完全拘束系の量子論的ダイナミクスは、通常の量子力学と同じ構造を持つ。
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