本研究の中心課題は、4次元正準量子重力理論における時間変数を中心とする観測量とダイナミクスの取り扱いにおける困難を解消することにあったが、この3年間の研究を通して、そのために必要な完全拘束系の新しい量子論の定式化を完成することができた。その基本的なアイデアは、前回の科研費に基づく研究で得られたものであったが、今回の研究では、それに厳密な数学的枠組みを与え、その整合性を示すことができた。この新しい定式化は、従来のディラック量子化の処方を修正し、拘束条件を全状態空間では規格化できない相対確率振幅に対して課すもので、ディラック量子化と異なり時間的変数を観測量として含むために、量子論的ダイナミクスの定式化が自然な形で可能となる。ただし、最も素朴な形ではこの定式化はダイナミクスの整合性を持たず、この困難の解決が研究の中心的な部分を占めた。結果的には、運動の定数の作るフォンノイマン代数の中心分解とそれにより決まる物理的部分代数に着目することにより、この困難を解決することができた。この新しい定式化は、自然な形でダイナミクスの研究を可能とする初めての厳密な完全拘束系の量子論を与えたものであるが、それが本来の目標である量子重力理論にそのままで適用できるかどうかは必ずしも明らかではない。特に、量子重力理論における運動の定数の作るフォンノイマン代数の構造は不明であり、その研究は今後の重要な課題である。
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