超伝導や超流動のような巨視的なスケールで起こる量子力学的輸送現象は力学系の対称性との関わりが深く、その記述にゲージ理論が有効に適用できる場合が少なくない。近年、量子ホール効果などの研究を通して、物性物理におけるゲージ場(的な自由度)の役割が広く認識されるようになった。ここのような現状を踏まえ、平成5年と6年の2年度にわたり、主として量子ホール効果に関わるいくつかの問題をゲージ理論の観点から研究した。その内容は以下の通りである。 1.アハロノフ・ボ-ム効果とアハロノフ・キャッシャー効果が電磁場の角運動量と密度に関係していることを指摘する論文を発表した。 2.平面上のデイラック電子系では、量子効果としてチャーン・サイモン項が誘導される。この量子的なホール効果は、外電磁場に対する量子的な真空(デイラックの海)の応答として理解できることを示す論文を発表した。 3.有限幅のホール電子系を記述する場の理論を構成し、ホール伝導度の高精度量子化が起こる機構と試料中を流れる電流の分布を考察した。有限幅のホール電子系では、局在が原因となってホール電流のかなりの部分が系の端を流れるようになることを指摘する論文を発表した。続いて、実験的証拠も取り入れてこのような端電流の描像を補強する考察を進めた論文をまとめた(現在投稿中)。 4.最近、ホール電子系のしめす非圧縮性流体としての性質とW_∞対称性との関連が注目されている。上述の場の理論にはこのW_∞対称性が自然な形で入っていることに気づき、ホール電子系のマクロな電磁的性質がW_∞ゲージ理論という普遍的な枠組に集約できることを指摘する論文をまとめた。(現在投稿中)。
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