有機フォトクロミック材料の研究は古くから行われているが、結晶のフォトクロミズムの機構解析はあまりない。結晶中では分子が規則正しく配列しているため、移動する原子の方向も含めて解明できる利点がある。本研究では結晶中でもフォトクロミズムを起こす物質であるサリチルデンアニリンの分子性結晶を研究対象としている。サリチルデンアニリンの分子は初めエノール状態にあるが紫外線照射によりプロトンが移動しベンゼン環の回転が起こってケト状態に変わることが知られている。ケト状態の結晶の吸収帯はb軸方向に偏光しているが、エノール状態にc軸方向に偏光した紫外光をあてると効率良くケトが生成されることが分かった。このことはフォトクロミズムの起こる方向がケト状態の遷移双極子の方向とは違っていることを意味している。 次に光照射によるエノール→ケト、ケト→エノール変換の温度変化を調べると結晶状態での活性エネルギーが求められる。その結果エノールからケトへの変換のエネルギーは24meV、ケトからエノールへの変換のエネルギーは17meVと求められた。これらはPMMAポリマー中のサリチルデンアニリン分子の値とジベンジル結晶中に埋め込まれたサリチルデンアニリン分子の値の中間の値である。このことは分子の回転がポリマー中よりも起こり難いが、ジベンジル結晶よりは起こり易いことを示している。
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