第一原理分子動力学法を用いてシリコン64原子、水素8原子からなるスーパーセル法により水素化アモルファスシリコンおよび水素を含まないアモルファスシリコンを作製した。計算結果から、次のような結論が得られた。(1)ダングリングボンドには双安定性をもつ2種類のダングリングボンドが存在し、SP^2的な構造をもつダングリングボンドは正の電子相間系となっているが、SP^3的な構造をもつダングリングボンドは大きな格子緩和によって負の電子相関系となっている(2)水素化アモルファスシリコンではSi-H-Siの3中心結合とSi-Hの結合のみが計算から観測されており、Si-H2は見られない。(3)水素化アモルファスシリコンでは、大半の水素はシリコンのダングリングボンドを終端している。ギャップ中に深い不純物として存在していたダングリングボンドが水素と強く結合することによって価電子帯中に引き込まれ、深い不純物準位が消失する。(4)水素化アモルファスシリコンではSi-H-Siの3中心結合はH原子を中心に蝶番のように10度程度回転しても全エネルギーはほとんど変化しないので、これによってアモルファス中では局所秩序をもつ平均4配位のシリコンを小さいひずみによってつなぎ構造を柔らかくする役目をしている。また、(5)水素原子が集まっている領域があるということは、一方で水素のすくない領域がありこのような領域では水素原子によって終端されていない対をつくらない単独のダングリングボンドを持つ3配位のシリコンが存在する。(6)また、5配位のシリコンも存在し、4配位と5配位のシリコン原子の間でボンドを時間的にやり取りしている浮遊ボンドが存在する。(7)水素原子によって終端されたダングリングボンドに帰属するシリコンとその再近接のシリコンは結合が弱くなる(いわゆるWeak Bond)という通説があるが、これとは逆でむしろ結合が強くなる傾向にある。
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