研究概要 |
グラファイトやフラーレンは物理・化学両面から大変注目されている.本研究では,これら炭素素材物質の物性のうち,電子間の多体効果が本質的な役割を演じる,1.強磁場下グラファイトの電子相転移と2.フラーレンの超伝導という二つの現象に焦点を当てた.まずグラファイトに関して,層に垂直な強磁場下での電気抵抗の測定に現れる低温での異常は,従来,磁場方向の電荷密度波(CDW)の形成に起因するという説明がなされていた.しかし,その議論において,ブリルアン帯の非等価な2つの稜,H-K-HとH'-K'-H'の区別が適切ではなかった.そこで,その区別を明確にして,CDWやスピン密度波(SDW)のハートレー・フォック近似でのギャップ方程式をたて,それを第一原理から解くことによって,CDWよりもSDWの方が高い転移温度T_cを持つことを示した.まだ電子の相関効果など,検討すべき点も多いが,CDWよりもSDW形成の可能性の方が高いと思われる.次に、アルカリ金属をドープしたフラーレンでは,伝導電子のバンド幅と同程度のエネルギーを持つC_<60>分子内のフォノンと強く結合し,電子相関も比較的強い多電子系を扱うことになる.従って,このような系での超伝導を正しく論じるには,バ-テックス補正を無限次まで考慮した強結合超伝導理論の開発が不可避である.その第一歩として,GISC法と名付けた理論を開発し,フラーレンに適用した.その結果,フォノン機構のバ-テックス補正はT_cをかなり上昇させることを見いだした.また,これに関連して,GISC法の理論的根拠を与える基礎理論をBaym-Kadanoffの保存近似法を越える形で構成した.そして,バンド幅の小さい極限では,電子のフォノンによる閉じこめを意味する,ある特有のエネルギーでのバ-テックス関数の発散など,興味深い事実を見いだした.なお,この一般理論は電子・フォノン系だけでなく,強相関系一般に適用でき,今後一層の発展が期待される.
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