平成5年度の研究は、燐酸2水素カリ(KDP)を作成し、これに誘電分散の実験を行い、キユリ-点近傍でデバイ型の分散と臨界緩和の現象を観測した。これから、KDPの相転移には、単一の緩和型分散が関与していることが明らかとなった。これにつながる研究として、平成6年度は、KDPの相転移に重要な関わりをもつ重水素置換効果が誘電分散に及ぼす影響を調べるためKDPの水素を重水素に置換した結晶(DKDP)を作成し、これに誘電分散の実験を行った。その際、誘電スペクトルの測定法に改善を計り、マイクロ波ネットワークアナラザ-(HP)を用い35MHz〜27GHzの幅広い周波数範囲にわたって連続的に誘電率が測定できるシステムを開発した。これに匹敵する誘電分散測定システムは日本では、静岡理工科大の出口研のみであり、世界的にもあまり例がない。 DKDPに対する測定から次の点が明らかになった。 1)一種類のデバイ型の分散と臨界緩和の現象が観測され、転移点での緩和周波数は、2.9GHzであった。 2)平均場近似を用いたメソン流の取り扱いによるモデルで解析を行った結果、素過程の緩和時間は、10^<-11>secとなり、アイリングの反応速度論の式でよく説明できた。この時のポテンシャル障壁の高さは、1.26kTcであった。 3)上記1と2の事実から、DKDPの相転移に関係するモードは、一種類緩和型モードのみであり、この物質は、秩序-無秩序型に分類されるとの結論を得た。
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