研究概要 |
本研究では、水素結合型強誘電体の代表である燐酸二水素カリ(KDP)の相転移機構を調べるため、同物質及び相転移に重要な働きをする同物質中の水素を重水素化した燐酸二水素カリ(DKDP)を作成し、これらに誘電分散の実験を行った。その際、誘電分散の測定法に改善を図り、マイクロ波ネットワークアナライザー(HP)を用い、35MHz〜27GHzの広い周波数範囲にわたって連続的に誘電率測定の出来るシステムを開発した。このシステムによる測定から次の新しい知見を得た。 1.KDPの相転移点付近での分散は一種類のデバイ型分散であり、臨界緩和の現象を示す。データの解析から、転移点での緩和周波数は24GHzである。 2.DKDPについてもKDP同様の分散が観測され、転移点での緩和周波数は、2.9GHzである。 3.平均場近似に基づくイジングモデルを使ったデータの解析からKDPとDKDPに対する素過程の緩和時間は、それぞれ、10の^<-13>秒と10^<-12>秒であり、これからポテンシャル障壁の高さは、それぞれ、0と1.26kT_Cと見積もられる。 4.以上の結果からKDP,DKDP共に秩序-無秩序型であるが、KDPの素過程については、単純なレートプロセスが使えず、このため、KDPについてはプロトンのトンネリング機構を考慮したモデルでの検討が必要と判断される。
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