κ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2に代表されるBEDT-TTF系有機超伝導体は、近年、高いTcを持つものが発見されている。これらの新しい超伝導体は、その超伝導のメカニズムにおいて不明な点が多く、その解明は急務であった。一方、超音波測定は、超伝導における電子格子相互作用の役割等を研究する上で有力な手段であったが、超音波測定に耐える程度の大きさの単結晶が存在せず、超音波測定による研究は行われなかった。本研究では、下記に示す物質の弾性的性質を初めて研究した。本年度に行った研究と成果は次の通り。 1.κ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2の縦波音速の測定:標記物質の縦波音速の温度依存性と磁場依存性を測定した。その結果、9.5Kの超伝導転移に伴う3.8x10^4の音速変化を見いだした。音速は、磁場中で、3T付近で異常なソフト化を示す。この異常は、磁束格子の融解に関係あるものと考えられる。 2.α-(BEDT-TTF)_2KHg(NCS)_4の縦波音速の測定:標記物質の縦波音速の温度依存性と磁場依存性を測定した。その結果、8K以下の異常状態の出現に対応し、低温で音速が高くなる、すなわち、格子が硬くなる現象を見いだした。この原因を低温異常相でのキャリアの消失と結び付けて考えて、電子格子相互作用の値を49K/moleculeと見積ることができた。 3.α-(BEDT-TTF)_2I_3の結晶成長と電気伝導度測定:超伝導を示すθタイプやβタイプの研究と関連して、金属絶縁体相転移を示す標記物質の結晶成長を行い、その最適化条件を見いだした。その結果、薄片状の試料しか得られないとされていた標記物質で、9X1.5X0.7mm^3の大きな単結晶の育成に成功した。また、電気伝導度等の実験を行い、この系の輸送現象に関する知見を得た。
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