III-V化合物半導体結晶中の転位の発生・運動の機構を基礎的に解明することを目的とし、今年度は特に不純物の影響を調べ、以下の新しい知見を得た。 1.昨年度、各種のIII-V化合物半導体中のα、β、らせん転位の運動速度が応力と温度を関数とする経験式で記述されることを明らかにしたが、各種の不純物を固容する結晶においても、同じ式によって記述されること、および、そのパラメータを得た。 2.GaP結晶では、ドナ不純物を固容すると、上記の3種類の転位は高純度結晶に比べてその運動速度が低下し、一方、アクセプタ不純物を固容すると、α転位の運動速度は低下し、β転位の運動速度は逆に速くなる。この特徴はGaAs結晶中の転位の運動速度に対する不純物効果と類似している。InAs結晶において、ドナ不純物を固容すると転位の運動速度は遅くなり、一方、アクセプタ不純物を固容すると、α転位の運動速度は速くなり、逆にβ転位の運動速度が遅くなる。このようなIII-V化合物半導体中の転位の運動速度に及ぼす不純物効果は結晶の種類によって著しく異なる。この機構については転位準位と結晶のフェルミ準位との相互関係に基づくと考える。 3.不純物を固容する結晶では、転位が転位源から発生するための温度に依存する臨界の応力が存在すること、それが不純物による転位の固着に基づくことが明らかになった。 4.高分解能電顕法およびウィークビーム法により、転位と不純物が相互作用した状態を観察し、GaAs結晶では転位上にInやSiの析出物が発達することが得られた。
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