電子拡散係数の相異する二種類の超伝導体NbとNb_<1-X>Zr_X合金膜を交互に人工的に積層した超伝導多層膜の超伝導混合状態相では、この系の層状構造に起因して超伝導秩序変数Δ(r)の局在性が膜面に平行な磁場および温度の変化に強く依存している。それに原因して膜面に平行な上部臨界磁場の温度依存性において特異な現象が観測される。とくに、X=0.5組成のNbZr合金膜とNb膜では積層された二つの超伝導体の転移温度T_Cが等しくなり、平行な上部臨界磁場の近傍でΔ(r)の局在中心がT=0.7T_Cより高温側ではNb層にあり、低温側ではNbZr層にある。このような超伝導秩序変数の局在性は混合状態の量子磁束線の状態に強く影響する。本年度の研究では上部臨界磁場の角度依存性H_<C2>(θ)を広い温度領域でしらべることにより超伝導秩序変数の局在性について、より深い知見を得ることを目的にした。 実験は磁場方向を膜面に平行方向θ=90°から垂直方向θ=0°の間を0.01度の角度精度で変化させて上部臨界磁場を温度をパラメーターとして測定した。 その結果、すべての温度でH_<C2>(θ)がθ=30〜40°領域において最小値を示し、θ=0°近傍で幅広なピークが観測された。その最小値での角度θ^*および最小値に対するピークの相対的な大きさの温度変化が0.7T_C<T<T_CとT<0.7T_Cの二つの領域で相違した振る舞いを示した。これらの特性を解析した結果、θ=90°でのΔ(r)の局在位置や電子拡散係数の相異と相関しており、0.7T_C<Tの高温側ではNb層に生成されたΔ(r)は角度の傾斜と共にNbZr層に序々に移動しθ^*で多層膜中のΔ(r)の分布が3次元的になりθ=0°でΔ(r)の局在中心がNbZr層に移動するクロスオーバー現象の存在が考えれた。本実験結果はWhitehead&Yuan(カナダ)らの理論による数値計算の結果とのよい一致が得られた。
|