本研究は電子拡散係数の相異するNb膜とNb_<1-X>Zr_X合金膜を交互に人工的に積層した多層膜超伝導体の超伝導混合状態相での量子磁束線(Vortex)構造を調べることを目的としている。この系は層状構造に起因する超伝導秩序変数DELTA(r)の変調が興り、それに原因して膜面に平行な上部臨界磁場H_<C2||>の温度依存性において特異な現象が観測される。X=0.5の組成では積層された二つの超伝導体の転移温度Tcが等しくなり、平行な上部臨界磁場の近傍でDELTA(r)の局在中心がT=0.7Tcより高温側ではNb層にあり、低温側ではNbZr層にある。 臨界電流密度Jcの膜面平行磁場依存性において、T>0.7Tcの領域でのJc(H)に極大をとる磁場Hpの存在が明らかになり、膜面内及びそれに垂直面内での磁場方向変化によるJcの角度依存性の詳細な測定から混合状態の量子磁束線がHpより低磁場側では酸化物高温超伝導体で提案されている階段状に侵入するstepwise-vortex的構造をとり、高磁場側ではNb層に二次元pancake-vortex的構造をとることが明らかになった。T<0.7Tcの低温度側でDELTA(r)の局在中心がNbZr層にある場合、上部臨界磁場に近い高磁場側では量子磁束線がNbZr層に二次元pancake-vortex的構造をとり、さらに、Jcの磁場依存性の精密な測定曲線において、二つのkink構造がT>0.7Tcの領域のH_<C2||>(T)曲線の延長上の磁場近傍のH_<L1>とH_<L2>で存在することが観測された。これついては東北大学の高橋・立木らの理論計算の結果から、このH_<L1>とH_<L2>で一次相転移の可能性が示唆されている。 さらに、このような量子磁束線構造はDELTA(r)の局在性と相関しており、上部臨界磁場の精密な角度依存性の測定およびその理論的な数値計算との比較からDELTA(r)の局在性についての詳細な知見を得ることができた。
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