磁性体における相転移現象の統一的な理解に寄与することを目的として、研究計画に従って補助金によって整備した実験装置を活用して、磁気共鳴、磁化率、強磁場磁化、中性子回析などを駆使した系統的かつ総合的な多様な研究を行い、以下の成果を得た。一部は既に公表し、一部は公表準備中である。 1.モデル物質の作製 補助金にて購入した電気管状炉を有効に活用して積層三角格子系ABX3型化合物およびABO2化合物、ならびに量子スピン系化合物を作製した。X線回析、化学分析によって試料評価を行った結果、高品質の試料が得られた。 2.三角格子系の研究 積層三角格子反強磁性体の相転移の性格がスピン対称性に著しく影響されることに注目して、Ising異方性およびXY異方性を有する種々のモデル物質について一連の各種臨界指数と広範囲の温度、磁場域で磁気相図を詳細に決定した。系を特徴づける連続的なスピン対称性とフラストレーションに由来する離散的なカイラル対称性とから生じる新しい普遍群に属する磁気秩序相を検証すると共に連続スピン系積層三角格子磁性体における新秩序相を究明した。異方性の違いを反映して、磁場-温度平面において2通りの普遍的かつ特徴ある磁気相図が得られた。 3.量子スピン系の研究 一次元ハイゼンベルグ系における量子効果に由来する新奇な基底状態を有するハルデイン状態ならびにスピンパイエルス状態を微視的実験手段によって究明し、外部磁場下における基底状態の破壊の移行過程およびそれに伴って出現する未知の磁気秩序相の解明を行った。
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