研究概要 |
当初の目的であった、非晶質合金のX線磁気回折は成功に至らなかった。その原因は、非晶質では弱い回折線が強い蛍光X線に埋もれてしまうためである。そこで本研究では、1.X線磁気回折によるf電子系(単結晶)のスピン、軌道磁気モーメントの形状因子の分離、および、2.新しい4f-3d系の非晶質磁性合金の作成と基礎的物性(磁化、X線回折、示差熱、密度等)の測定、および、磁気コンプトン散乱実験によるスピン磁気モーメントの評価、を新たな目標として研究を遂行した。それぞれの成果の概略を以下に示す。 1.(1)高エネルギー物理学研究所・放射光実験施設において国内では初めてX線磁気回折実験システムを構築した。単結晶Feの実験より蓄積リングビームのσy'(垂直角度発散)を初めて正確に割り出すことができ、これにより任意の強磁性体を対象とすることが可能となった。(2)単結晶UTeのX線磁気回折実験より、ウラン5f電子の軌道磁気モーメントを強く反映した磁気形状因子を測定することに世界で初めて成功した。さらに中性子回折のデータと組み合わせることにより、スピン、軌道磁気モーメントの形状因子を分離することにも成功した。 2.(1)4f-3d系の新しい非晶質合金a-RE_<60>Fe_<20>Al_<20>(RE=Gd,Y,Nd,Sm,Td,Dy,Ho)を、アーク炉内直接急冷法という新しい方法で作成することに成功した。磁化測定により次の知見を得た。Y系以外は強磁性を示す。低温で交流帯磁率の減少が観測され、スピングラスの兆候を示す。Gd系以外は硬磁性を示す。(2)a-Gd_<60>Fe_<20>Al_<20>の磁気コンプトン散乱実験よりGdとFeのスピン磁気モーメントを見積ることができた(Gd=6.4μ_B,Fe=2.0μ_B)。今後の計画は以下の通りである(1)3d-、4f-、5f-電子系のスピン、軌道磁気モーメントの形状因子の系統的な研究へ発展させる。(2)SPring-8の高輝度放射光を用いて、非晶質磁性合金のX線磁気回折を目指す。
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