研究概要 |
アモルファス純金属の有限温度磁性理論を拡張して、磁性合金を取り扱うための理論的枠組と計算方法を確立した。この理論に基いて、第1に構造不規則性が強磁性を壊しているアモルファスFe-Zr合金と構造不規則性が強磁性を強めているアモルファスCo-Y合金系を取り上げてその物理量を計算し、両者の電子状態の変化と構造との関連を明らかにした。第2に特異な磁性を示すアモルファスTM-Y(TM=Mn,Fe,Co,Ni)合金へ理論を適用し,数値計算を行なった。その結果,Mn-Yにみられるスピングラス(SG)状態の出現、液体急冷Fe-Y合金にみられるSG-強磁性(F)-常磁性(P)転移,Co-YとNi-YのF-P転移等の系統的な磁気相図の変化が最も乱れた原子配置を仮定することによって再現されることを示し、磁化・帯磁率の濃度・温度依存性を半定量的に導びいた。これらの多様な磁性は、Mn-Mn間の反強磁性相互作用(Mn-Y),Fe-Fe原子間の非線形磁気相互作用と局所環境効果(Fe-Y)、アモルファス系に固有の原子サイズ効果(Fe-Y,Co-Y)、及び3d-4d混成(Co-Y,Ni-Y)等によって引き起こされる。第3に、原子短距離秩序効果を数値的に調べ、Fe-Fe原子対の増大に伴なう原子サイズ効果と非線系磁気相互作用によってF-SG転移が生じることを見出した。そして、この機構が、スパッタ法Fe-Yアモルファス合金にみられる単相SGを説明することを指摘した。第4に,アモルファス金属と結晶金属を内挿する磁性理論を提案し、格子の乱れを増大して結晶からアモルファスへ移行させる場合の磁性の変化を調べた。その結果、bccFeでは、原子間距離の揺らぎ△が0.05を越えるとその強磁性が急激に不安定化して2次のF-SG転移を引き起こすことを示した。また、fccNiでは乱れ△を導入することによってキュリー温度が急激に減少し、その磁性が乱れの程度によって大きく左右されることを見出した。
|