研究概要 |
液体金属-セレン合金系の中から液体Ag-Se,In-Se,Pb-Se合金系を選び、帯磁率、電気伝導度及び熱電能を系統的に測定し、液体半導体のモデルを用いて電子的性質の検討を行っている。液体Ag-Se系におけるAg_2Se組成での鋭い伝導度の極大と液体In-Se系のIn_2Se_3組成での伝導度の極大は、単純な液体半導体のモデルからは説明できない。これらの液体合金系の帯磁率の濃度依存性は、それぞれの化学量論的組成Ag_2SeとIn_2Se_3で鋭い極小を示した。この極小は、伝導電子の状態密度の極小とイオン反磁性の極小を示唆している。伝導度と同時に測定した熱電能は、これらの組成近くで比較的大きな負の値を示している。これらの測定結果から、この化学量論的組成では電子密度が比較的小さいが、移動度の大きい伝導電子がキャリアであることが明らかになりつつある。また、液体Sn-Se系と液体Pb-Se系の伝導度と熱電能の測定は、本研究において主要な設備備品である加圧装置を導入し、10気圧のArガスで加圧した状態で,安定したデータを広い温度と組成範囲にわたって得ることに成功した。その結果によれば、これらの液体合金の伝導度は、金属側からセレン濃度の増加とともに単調に減少し、SnSe組成とPb_<0.45>Se_<0.55>組成で極小を示し、それぞれ70at%Se組成近傍で小さなピークを生じる。このとき、熱電能は対称性の良いp-n転移を起こすことが明らかになってきた。そして、これらの系は液体半導体のモデルによって比較的良く説明できる。 そこで今後、液体Ag-Se、In-Se系に関してもこの加圧装置を用いて広い温度と組成範囲にわたって測定を試み、精度の高いデータを得て特徴ある伝導度の極大の問題をさらに詳しく検討するつもりである。
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