本年度は、昨年度開発した超急冷装置を用いて.AgIと種々の有機イオンの混合系ガラスを作成し、新たに購入した微小電流測定用デジタルマルチメータと高入力インピーダンスのポテンショスタットを周波数応答解析器と組み合わせることにより、臨界領域での直流交流伝導度と誘電率の周波数依存性を測定した。また、静的なクラスター構造とクラスター内でのイオン拡散の情報を得るために、中性子回折、小角散乱、および中性子準弾性散乱の実験を行なった。 直流イオン伝導度のAgI体積分率中依存性から、臨界濃度φc=035、動的臨界指数μ=2となり、3次元系のモンテカルロシュミレーションに近い結果が得られた。100MHzまでの周波数ω依存性を測定した結果、φ》φcの超イオン導電体領域ではω依存性は見られず、臨界組成に近づくにつれてφ>φcではω^<0.5>の依存性が観測された。φ<φcの絶縁体領域では、直流伝導度は測定限界以下だが高周波数ではω^1で増加し、また誘電率は臨界組成に近づくと急激に増加し、発散する傾向を示した。 低角成での中性子回折ならびに小角散乱から、この系は顕著な小角散乱を示し、I1q)〜q^<-0.3>から〜q^<-2.9>の波数依存性へとクロスオーバーするマルチフラクタル性を示した。更に、中性子準弾性散乱から見積られる銀イオンのジャンプ頻度は、直流伝導度からの見積よりも大きく、AgIクラスター内での高速イオン移動を示唆する。 これらの結果は、当初の予想どおり、この系の超イオン導電体・絶絶体転移現象が典型的なパーコレーション転移である事を示し、ガラスのイオン伝導を理解する上で、伝導経路の連結性というパーコレーション問題が重要な事を具体的に実証した。
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