本研究で、我々は最も単純な星型高分子の性質を既知として、希薄溶液中での任意の形状の高分子ネットワークの性質を予言するスケーリング理論を構築することを最終目標として研究を進めてきた。我々は、繰り込み群の方法などを用いた系統的な解析により、静的性質に関しては既にスケーリング理論の構築を完成した。平成6年度は、星型高分子のモンテカルロ・シミュレーションを行い、幾つかの空間分布関数と空間分布の非球対称性(asphericity)さらにシェアに関する緩和時間の振る舞いを調べた。Rouse模型に排除体積効果を含み入れたモデルを考え、クラマ-ス・ポテンシャルの方法により静的な物理量を計算する手法を用いて緩和時間のような動的な物理量を調べることが出来る可能性について調べた。特に、我々の開発したエンリッチメント法に基づくモンテカルロ・シミュレーションと、Binder教授のグループの開発したボンド・フラクチュエーション・モデルに基づくモンテカルロ・シミュレーションを行い、クラマ-ス・ポテンシャルの方法で緩和時間を見積もり、星型高分子の腕の数依存性に関するGrestらの理論的予想値と誤差の範囲で一致する結果を得た。クラマ-ス・ポテンシャルの方法によれば、任意のトポロジーを持つ高分子ネットワークのシェアに関する緩和時間に関するスケーリング理論を構築するための基盤が得られるが、さらなる考察が必要である。また、ABブロックコポリマーで、AがBに比べ十分長く、Bが互いに結合し易い条件下(溶媒がAに対して良、Bに対して貧)の場合には、高分子ミセル溶液が形成されるが、この系の統計力学が星型高分子希薄溶液の性質にどのように関係しているかを調べた。我々は、平成5年度および平成6年度の本科学研究費で購入した専用計算機上での簡単な高分子ネットワークのシミュレーションを行い、大型計算機用のアルゴリズムの開発を行ってきた。
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