本年度は特に、中性poly-N-isopropylacrylamide(NIPA)ゲルの2相共存領域における、相境界移動のカイネチックス、相分離過程での不均一構造の凍結、及び新たに見い出された異常な相分離パターンについての研究を行った。 1.相境界移動のカイネチックス:この点に関して特筆すべきは、実験技術の改善である。すなわち、従来の相境界移動の測定は、極めて長時間(数日〜数週間の程度)を要する事が難点であったが、我々は本研究において直径100μm以下の極めて細いゲルファイバーを作製する事に成功し、それを試料とする事により、測定時間を大幅に(2桁程度)短縮できた。この改善により、相境界の運動に関して多くの詳細なデータを得る事が可能となった。現在、この方法に基づく測定が進行中である。 2.不均一構造の凍結:ゲルの相分離の中間過程で、不均一構造が凍結する現象は、試料の巨視的サイズに依存する事が、初めて確認された。この事実は、ゲルの表面構造がバルクとは異なることを示唆するものであり、来年度の研究課題である。 3.相分離におけるセルパターンの観測:エタノールと水との混合溶媒中の相分離において、きわめて特徴的なセルパターンが初めて観測された。この事は、NIPA鎖がかなり剛直である事の証拠であると解釈された。
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