当初の計画に従って、実験の面では、3相共存状態における分域の挙動の精密測定を、また理論的研究の面では、転移に伴う水の状態の変化と収縮相の安定化条件を解析した。 (1)実験的研究:3相共存状態の実現と分域の温度挙動 試料の大きさを従来の実験の場合に比べて約1/10の100mμとすることにより、体積緩和時間は約1/100に短縮され、分域壁の温度挙動の実験が短時間で実行できるようになった。ただし、試料の微小化に伴う顕微鏡倍率増大の必要性から、温度制御は従来よりも難しくなった。試料ホルダーの構造、温度制御機器の精密化によってこの問題に対処し、一応初期の目標を達し得た。NIPAゲルの体積相転移機構の理解には、従来の現象論よりも更に進んだ理論を必要することが確認できた。 (2)理論的研究:転移におけるゲル水の振舞いと収縮相の安定性 今年度の研究から得られた最大の収穫は、現実に起こるゲルの体積相転移が、従来Floryの現象論が予言する相転移とはかなり異なると言う点が明らかになったことである。すなわち、種々の実験事実を総合的に判断すると、収縮相は自由水を含まず、網目と束縛水とが結晶的な構造を形成していると考えられる。この事は、一種類のモノマーから出来た合成高分子でも、溶媒を組み込んだ高次構造を取り得る事を示すものであり、タンパク質のような生体高分子の構造形成のモデル系として、今後の研究対象になり得ると考えられる。
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