近年、フラクタルやパーコレーションの概念は、不規則系の構造の表現の一つとして様々な分野で用いられている。本研究の目的は、X線小角散乱から始め、二成分溶液系において臨界点にいたる過程がこれらの概念で表されるか否かを検討し、溶液の混合状態の表現として新たな概念の導入の可能性を探るものである。 報告者は、転任したてのため、このテーマを行うための実験装置を現有していない。したがって、本研究を行うためのX線小角散乱装置の製作と、前任大学で測定したデータをこのテーマに沿って見直すことの二本立てで行った。 まず、実験装置の立ち上げを完了した。製作した装置は以下のとおりである。LiF単結晶を高さ方向および横方向両方に湾曲させ、ポイント・フォーカスの集光を兼ねたモノクロメータを製作した。また、X線の通過する部分はすべて真空系とした。測定の効率を考慮して、PSPCを用いた一次元検出方式を採用している。 以前収集したアセトニトリル水溶液系をサンプルとして、フラクタル次元解析を行った。この水溶液系は、アセトニトリルのモル分率にして38%、温度-1℃に上部臨界点を有する。様々な濃度の溶液において、それぞれ25℃、6℃、0℃の温度で測定したX線小角散乱強度データを用いた。クラスターの成長に伴いマスフラクタルと解釈できる次元が増加していく様が見いだされた。しかし、今回用いたデータはライン・フォーカス方式で収集されたデータであり、縦分散の効果が完全には除去できていない。今回たちあげた装置を用いて、精度の良い強度データを収集することが今後の課題として残った。
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