2次元、3次元ソフトコアモデルを用いて、過冷液体の分子動力学シミュレーションを行い、ダイナミックスを中心に考察した。これらの結果から粗視化された原子運動には異なる2種類のジャンプ運動が存在することおよび過冷液体中の原子配位およびケージ効果の特徴を反映してこれらのジャンプ運動の一方(平均のジャンプ率が小さい方)のジャンプ率は一定ではなくある分布をしていて通常のジャンプ拡散と質的に異なることなどを明らかにした。このような原子運動の特徴を取り入れて、1粒子拡散方程式(マスター方程式)を解くことから種々のダイナミックス(緩和関数など)の異常性について考察した。得られた主な結果は以下の通りである。 (1)高過冷液体において準異常拡散が生じる。このことから中間時間帯での動的異常の振る舞い(α緩和、β緩和)の機構が明らかにされる。 (2)ガラス転移温度以下で異常拡散が現われる。これより拡散運動は存在するが拡散係数はゼロとなる。これは長時間極限でも動的異常性が現われることを示すものである。液体-ガラス転移はガウシアン-ノンガウシアン転移として理解されるとの新しい概念の提案やまた新しい緩和(α')の存在も示唆される。 (3)(1)の結果は分子動力学シミュレーションによる過冷液体(二成分ソフトコアモデル)の一般化された複素感受率の計算を行うことからもその妥当性を示すことができる。また近年の中性子回析実験の結果ともよく符号することが示される。 この他、関連する問題として、荷電高分子鎖溶液の分子動力学シミュレーションによる考察からモノマー分子、対イオンのダイナミックスに関する研究も行った。
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