準1次元電子格子系として記述されるポリマー(主としてポリアセチレン)における非線形励起、ソリトンのダイナミクスを計算機シミュレーションによって調べ、今年度は以下の成果を得た。 1.運動しているソリトンのまわりに局在局在する格子振動のモードの内、ソリトンの幅の振動に当たるものの振動数を数値データーより解析し、速度と共に増大することを明らかにした。 2.電場で加速されたソリトンの電場切断後の速度が、ソリトンと格子振動の相互作用のために減衰すること、特にその減衰率は切断直後のソリトン速度が系の音速に等しいとき最大になることを見いだした。これは、ソリトンの速度の減衰が主として音響フォノンとの相互作用によるものであることを示している。 3.電子のエネルギーバンドが1/3満たされているときには、分数電荷±2e/3を持つ荷電ソリトンの存在が示唆されているが、そのダイナミクスをポリアセチレンの場合と同様の方法で調べ、秩序変数の位相の自由度に関連した運動が荷電輸送に大きな役割を果たすことを、具体的に示し、その運動を可視化した。 4.格子系に現象論的な減衰項を導入したときの、ソリトン速度の減衰についても調べ、現実のポリアセチレンにおける電気伝導がソリトンによるものだとしたときの伝導度を計算した。その結果、理想的な場合にはソリトンによる輸送で金属と同様の伝導度が得られることが明らかになった。 5.電子間の相互作用が主として原因で1次元系に実現されるスピン密度波(SDW)状態にもポリアセチレンと同様のソリトンが形成されることが知られているが、2個のソリトンの衝突に関するシミュレーションを行い、相対速度によって、或いはソリトンの種類によって吸い寄せられる場合、反発される場合など多様な散乱の性質を示すことが明らかになった。
|