ポリアセチレン等の導電性ポリマーにおける、典型的な非線形励起であるソリトンのダイナミクスを、主として計算機シミュレーションの方法で調べた。静止したソリトンをもつ初期状態は、電子の波動関数と、古典的に扱われる格子変位を、系の全エネルギー最小の条件が満たされるように自己無道着に決めることによって求めた。ソリトンの運動は、外力としての電場を導入することで、自然に引き起こし、運動するソリトンの形に関する仮定を用いることなくダイナミクスを議論できた。得られた主な結果は、以下の通りである。 1.ソリトンが音速の3、4倍の飽和速度をもつことを確かめた。 2.運動するソリトンの幅は、速度の減少関数であることを示した。 3.ソリトンの運動エネルギーは、飽和速度のところで弱く発散する。 4.運動するソリトンのまわりの振幅モードの振動数は速度の減少関数である。これは、運動するソリトンの内部構造の硬さを示している。 5.短距離サイト型不純物ポテンシャルは、ソリトンにとってはソリトン幅程度の有限の広がりをもった有効ポテンシャルとして感じられ、ボンド型不規則性はソリトンにとって、階段状のポテンシャルになることを、ダイナミクスの計算から示した。従って、ボンド型不規則性は、ソリトンに対し非局所的な有効ポテンシャルを与える。 6.格子系に現象論的な減衰項を導入することによって、電場に比例する定常速度を得たが、その速度と電場の比例関係から、理想的なポリアセチレンのソリトンによる電荷輸送で、室温における伝導度が銅などの金属良導体と同程度になりうることを示した。 荷電ドーパント不純物のポテンシャルによるソリトンのピン止めをはずすための活性化エネルギーは、ソリトンの幅が有限であるため、ドーパント濃度と共に急激に減少することを示した。
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