研究概要 |
水分子はごく身近な分子であり、分光学においても周波数の基準として使われることが多い重要な分子である。しかしその回転遷移の多くは遠赤外域にあるため、これまでの周波数測定は精度がよい場合でも数MHz程度であった。 1。本研究では水分子の重要性に注目し、新たに作った周波数可変遠赤外分光計を用いて、10〜170cm^<-1>の範囲にある水の回転遷移の周波数を数十kHzの精度で測った。これによりこれまでより2桁精度の高い周波数テーブルが完成した。 測定に当たっては、J.W.C.Johnsの周波数テーブル中、上記の波数範囲にあるものすべてについて測定を行った。測定した本数は136本に及んだ。また、同位体分子についても測定を行い、D_2O,HDO,H_2^<18>Oなどのスペクトル線の周波数を一部ではあるが測定した。 2。水分子は構造が簡単でありながら、遠心力歪が大きいため理論解析のむずかしい分子である。多くの分光学者が様々な方法でアプローチを試みている。本研究では、新しいデータを基にこれまでの解析方法の妥当性をチェックした。 解析ではまず、Watson型のハミルトニアンを用いてその中の各項の係数を最小二乗法で求める従来の方法を試した。この結果、従来の方法でも係数を新たに決めれば、今回の測定値を充分再現できることが確かめられ、その新しい係数の組を決定した。次に、再現性の一層の向上を期待してPade近似を使った解析も試みた。しかしこの方法は目だった特長を示さなかった。根本的に視点を変えた方法が現在いくつか提案されているので、今後それらを発展させる必要があると認識している。
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