研究概要 |
起伏のある地形での地表面と大気の間での熱,水蒸気,運動量の交換過程は今までほとんど未解明であった.陸面と大気との相互作用は地域規模の気象の解明だけでなく,全地球規模の気侯変動のメカニズムの解明においても重要な課題である.この研究の目的は比較的単純な形の谷や盆地において,熱的に引き起こされる局地循環風と,乱流拡散により熱と水蒸気が水平方向や鉛直方向に輸送されるメカニズムを,野外観測と数値シミュレーションの両面から明らかにすることにある. 長野県の伊那谷はわが国ではもっとも深い谷である.この谷のなかで晴天日においてゾンデによる気温と湿度の鉛直分布の観測を実施し,そのほかの気象データと併せて解析した.その結果,伊那谷のように深い谷の中央部では,地面からの顕熱が乱流によって伝わる混合層と局地循環により熱が伝搬される層(準混合層と命名)が明確に分離できることがわかった.この層は乱流のパラメタリゼーションを含む2次元の数値モデルによっても再現され,準混合層の形成にかかわる山の高さと混合層高度の関係が明確になった.また斜面上昇風によって水平方向に運搬される水蒸気量は起伏の水平規模に密接に関係があり,水平規模が100kmのオーダーのときに斜面上昇風による水蒸気の再配分はもっとも顕著になることが示された. また斜面風の線形モデルを構築した.起伏による熱的局地循環の解析解をもとめ,局地循環の強度と地形の水平規模の関係を解析的に明らかにすることができた.この結果,斜面上昇風は地形の水平規模が100km程度のときに最も強調されることが分かった.また水平規模が小さくなるほど,谷の中の温位分布が水平方向に一様になる傾向が強まることが示された.
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