日本南岸の黒潮流路には比較的安定な大蛇行と直進の二つの流路が存在する。この二つの黒潮流路の力学に関する一年目の研究として、四国海盆北部及び150°E以西の黒潮海域の陸岸・海底地形を忠実に表現した数値モデルを作成した。同一の数値モデルで、東シナ海に相当する海域からの流入流量のみを変えた数値実験を行い、生じる流路の差異を調べた。その結果、30Sv(1Sv=10^6msec^<-1>)の流量を与えた場合には直進流路のみが形成された。しかし、80Svの流量を与えた場合には大蛇行流路と直進流路が時間の経過とともに交互に生じる結果が得られた。直進流路から大蛇行流路への移行は紀伊半島や室戸岬の近くを流路が走ることで地形性渦流が形成され、この渦流による正の渦度の供給に因ることが分かった。一方、大蛇行流路から直進流路への移行は流路が紀伊半島や室戸岬から離れて正の渦度の供給がなくなり、惑星ロスビー波の西進によって流れが岸に押し付けられることに起因することが示された。これらの結果は現在Journal of Physical Oceanographyに投稿中である。 以上の結果は2層プリミティブモデルを仮定して、今までよく調べられていない日本南岸を詳細にモデル化した場合の陸岸海底地形効果に関するものである。この次の段階として、連続成層モデルによる同様な実験を行っている。境界では年平均水温・塩分・密度の年平均観測値を与え、境界で与える流速を変えた幾つかの数値モデルを検討中である。さらに、モデルで得られる結果は渦動粘性・拡散係数などのパラメータにも依存するため、これらの値を変えたモデルも調べる計画である。
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