本研究では黒潮の大蛇行流路と直進流路の基本力学とその変換過程に関するものである。一年目の研究では黒潮流路に及ぼす陸岸地形効果を調べ、直進流路から大蛇行流路への移行は紀伊半島や室戸岬からの正の渦度の供給が本質的であることが示された。また、大蛇行流路から直進流路への移行はこれらの陸岸地形から流路が離れ、正の渦度の供給が無くなることに起因する可能性が示唆された。二年目の本年は陸岸地形効果に加えて海底地形効果を含む数値モデルを作成し、両者が黒潮流路に与える影響を調べた。その結果、大蛇行流路は室戸岬から離岸する傾向が強く、紀伊半島の陸岸地形を取り去ったモデルでは室戸岬からの流路の離岸は変わらないが、室戸岬を取り去ったモデルでは離岸する点が室戸岬より下流(東)に移動する結果が得られた。さらに紀伊半島と室戸岬の両方の陸岸地形を取り去ったモデルでは離岸する点はさらに東の下流に移動した。これらの結果より、大蛇行流路には室戸岬の陸岸地形効果が重要な役割を果していることが示された。また、海底地形効果は直進流路を安定化するため、小さい過粘性係数を仮定しかつ流入出流量として80Svを与えたモデルにのみ大蛇行流路の形成がみられた。80Svを与えたモデルでは傾圧不安定が生じ、大蛇行流路は強い非線形状態下の傾圧不安定で生じる可能性が示された。以上の結果をまとめた二つの論文は学術雑誌La merに受理され、現在印刷中である。これらの研究の成果は今後の黒潮流路の力学について着実な進歩を得たものと思われるが、観測データとの対応が不十分である。1994年7月に黒潮を南北に横断する三つの線上で水温、塩分、流速場の観測を実行し、現在結果の解析を進めている。また、従来の水温観測データなどから室戸岬の地形効果について今後詳細に調べる計画である。
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