研究概要 |
平成6年度は、まずオゾン破壊現象が起こっている気塊の特徴を明らかにした.地上風データを用いたトラジェクトリー解析によってこの現象が起きている気塊の水平スケールが求められた.それによれば水平スケールは数百kmであることが明らかになった。また、地上オゾン濃度とオゾンゾンデデータを同時に解析することにより、鉛直方向には約3km高度までオゾン破壊が及んでいることが明らかになった。さらに特徴的なことは、この現象の境界がきわめてはっきりしていることである。したがって特定の気塊の中でオゾン破壊反応が進行し続けていること、オゾン破壊に関与していると思われる物質が拡散しにくいものであることなどが明らかになった。さらに、この現象と昭和基地における地上エアロゾル数が非常によい相関を示すことが明らかになった.昭和基地における0.3μm以上のエアロゾル数は通常1,000個/1程度であるが、オゾン破壊現象が見られる時には10,000個/1前後まで急増するのである.さらにオゾン破壊現象が見られない7月にもエアロゾル数の急増は起こっているが7月にはオゾン破壊現象が見られない.7月の昭和基地は極夜であり8月に極夜明けとなることから、この現象に太陽光が大きな関連をもっているものと推定される。1993年に昭和基地に持ち込まれた濃縮装置付きガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)によって得られた化合物の濃度変動とオゾン破壊現象の関連を調べた.その結果、GC/MSで検出された物質とオゾン破壊現象の間には直接の関連は見いだせなかった.特に北極域でオゾン破壊現象と密接な関連が指摘されている海洋生物起源のCHBr3等の臭素(Br)化合物は昭和基地の春季には検出されなかった.この期間の南極周辺海域は海氷が1年で最も沖合いまで張り出す時期であるため、海洋から放出される生物起源の化合物は殆ど存在しなかったものと考えられる。
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