成層圏エアロゾルの光学的性質は、地球温暖化等に関連する成層圏の放射伝達特性を理解する上で極めて重要なパラメータの一つである。また、オゾン層の破壊に関係すると考えられているエアロゾルの粒径(表面積)等の推定においても極めて重要である。本研究では、成層圏エアロゾル層の多波長のミ-散乱ライダーおよびラマン散乱ライダーを用いて同時に観測を行うことにより、成層圏エアロゾルの分布および光学的特性の高度プロファイルを導出し、ピナツボ火山噴出後のエアロゾルの粒径分布プロファイルの変化など成層圏エアロゾル層の挙動を解明することを目的とする。はじめに、既存のライダー装置へのラマン散乱信号の取得のための整備を行った。測定の対象とするラマン散乱信号は、窒素分子の振動ラマン散乱とし、多波長での観測を可能とするために、送信レーザー光としてNd:YAGレーザーの二倍波の532nmおよび三倍波の355nmを用いた。さらに、取得信号からのエアロゾルの散乱パラメータである消散係数と後方散乱係数の比の高度分布を導出するための解析用プログラムの整備を行った。また、多波長のミ-散乱およびラマン散乱ライダーにより得られた信号から求められる消散係数と後方散乱係数の比の高度分布から、成層圏エアロゾルの粒径分布の導出の可能性についてミ-散乱理論によるモデル計算のプログラムを開発し検討した。その結果、二波長以上での観測結果を用いれば、相似となる分布の標準偏差を求めることができ、これよりモード半径を推定できることが明らかとなった。現在、成層圏エアロゾル層の濃度は薄い状態にあり、本装置では、十分な測定精度を得ることができなかった。今後の課題として、測定感度の向上を検討しており、さらに本研究の成果を役立てて行く。
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