日本列島太平洋岸沖の22の海底谷系において、各々の主谷および主要な支谷の谷系パタンおよび縦断面形をまとめ、考察した。まず、海底谷形成の要因となる浸食作用と地質構造の影響を識別するために、とくに西南日本沖の海域について5万分の1、10万分の1の接峰面図を作成した。その結果、西南日本沖の海底谷のうちほとんどの陸棚縁辺谷の形成は浸食作用によることがわかった。また、西南日本沖の各海底谷系の主谷は、すべて地質構造の影響を受けた構造谷であることがわかった。主谷の形態を規制するその地質構造は、海溝内側斜面(大陸斜面〜大陸棚)を切る大構造線と考えられ、海底谷のみならず、西南日本弧の形成を考える上で重要な情報である。北海道沖の海底谷も構造谷である。東北日本沖の海底谷はほぼすべてが浸食谷と考えられる。なお、西南日本の潮岬海底谷に沿う下部大陸斜面には深海扇状地が存在することが明らかになった。この深海扇状地形成には熊野海盆からの堆積物供給が考えられ、前弧海盆の形成過程等に関わる情報をもたらす。海底谷の縦断面地形の解析からは、北海道から九州(宮崎)沖などのすべての海底谷の谷軸傾斜に共通する部分があることがわかった。明瞭な傾斜変換点をもとに4つの斜面を識別できた。それらの斜面を地形構成要素として、すべての海底谷縦断面を再現できる。このことは海域・周辺の地体構造に関係なく、海洋プレート沈み込み場の内側に形成される地形に共通性があることを意味する。さらに、房総海底谷系-相模海底谷系に関しては、最新の高精度海底地形図が刊行されたため、20万分の1の海底谷系図を新しく作成した。
|