北西太平洋域の2本のコアの底生有孔虫群集の解析から得られた深層水循環の変動の概要は、以下のようにまとめられる。1)西マリアナ海盆では、南極底層水を代表するNuttallides umboniferaが酸素同位体比カーブと正の相関を持つ。また、この種は産出頻度が、δ^<18>Oカーブとほとんど同様であることから、氷量と底層水の強さに強い相関があることが予想される。この結果は、温暖な時期には北大西洋深層水が活動し、それに伴って南極の底層水も強化され、西マリアナ海盆まで運ばれたことを示していた。2)西カロリン海盆北部の結果をみると、全体がEpistominella exigua-Ioanella pusillaを中心とした群集であり、大きな群集変化がなく、ただ氷期にE.exiguaが卓越する傾向がある。この群集組成や変遷の傾向は、オントン・ジャワ海台でみられた傾向とよく一致し、太平洋域の平均的な群集だと考えられる。E.exiguaが周南極深層水を示唆することなどを考え合わせると、氷期における太平洋深層水の起源は、南極周辺海域で、おそらく現在の周南極深層水ではないかと推測される。3)現在、西マリアナ海盆では、高塩分、低温、高密度の南極底層水起源の深層水が、唯一ヤップ・マリアナ・junctionから流入している。2PC(2683m)における底生有孔虫の群集変化は、この流入量が氷期と間氷期で大きく変動したことを示していた。つまり、フィリピン海の海底が、周囲を伊豆・小笠原海域からマリアナの海嶺、ヤップ島からパラオ島まで2000〜2500mの壁で中央太平洋から閉ざされ、唯一ヤップ・マリアナ・junctionから重く冷たい深層水が流入し、海嶺の縁までくると、あふれでてしまうので、比較的深度が浅くても南極底層水の影響を受けることがわかった。
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