本研究の目的は殻形態の特徴より、‘生きている化石'とされているPromanawaとSaipanettidae科の「新属」(以下、単に「新属」と呼ぶ)について分類学的検討を行ない、機能形態、生態分布、進化的意味を明らかにすることにあった。その第一歩として、まだ得られていない動物体付のいわゆる「生体」の採集を試みた。「新属」については'93年4月の宮古島近くの下地島、5月の沖縄本島近くの伊江島周辺の礁斜面途上の海底洞窟内においてプロダイバーを雇い、調査、試料採取を実施した。その結果、伊江島の「大洞窟」の側壁の割れ目より「生体」を得る事が出来た。そしてこの一連の調査、試料採取を通じて「新属」が側壁の隙間を生活の場とする隠生的な生活葬式を採っており、そのことが洞窟内に強力な競争相手となり得るより進化した貝形虫種が少ないこととあいまって、‘生きている化石'として生存し得た一つの大きな原因であると結論を得た。殻形態については走査型電子顕微鏡を駆使して高倍率の像でしか観察し得ない感覚子孔の形態や殻表面上での分布等を調べ「新属」の原始性を確認し、殻をもとにした分類学的記載を行なった。「新属」については今後、殻だけでなく動物体も含めた研究を進めていく予定である。Promanawaについては、'93年9月、石垣島・西表島間のサンゴ礁、石西礁において船をチャーター、プロダイバーを雇って堆積物試料の採取を実施した。現在、採取した堆積物サンプルよりPromanawaの「生体」を拾い出す試みを続けている。なお本研究以前より殻をもとにした分類学的・機能形態的研究を進めており、その得られた知見については最近、花井・田吹の共著によりドイツの学術誌上で報告した。「生体」が発見、研究されれば、殻で得られた知見と合わせ、Promanawaの‘生き残り戦略'を明らかにする重要な手がかりが得られるであろう。
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