本年度は、調査対象地域を東へ広げ、主として斜里町から標津へ抜ける国道244号線の両側と、さらに屈斜路湖の東側の地域を調査し、試料を採集した。 国道244号線に沿う地域は、5万分の1の「武佐岳」図幅の範囲である。国道の南側に根室黒鉱鉱床があり、北側に第三紀花崗岩がある。今まで問題にならなかったのが不思議である。採集した試料の化学分析値、ならびに変質鉱物の組合せは、東北日本弧のグリーンタフ地域の火山砕屑岩に類似している。第三紀花崗岩は磁鉄鉱系であり、日高変成帯のチタン鉄鉱系とは明らかに異なる。テクトニクスの観点からの重要な発見は、配列が東北日本弧とは逆になっていることである。 日高山脈を中心とする白亜記の付加体は、礼文島の火成岩類の存在によって、西側へ沈み込んでいたことを示している。このようなテクトニクスの枠組みは、新第三紀まで継続したらしい。本研究者は網走海溝という名称を提唱したが、この地域の常呂帯は変成度が東へ上昇しており、東への沈み込みで形成された可能性が高い。その先に、斜里-標津の黒鉱鉱床と第三紀花崗岩類が存在する。この地域に、東北日本弧とは異なる1つの島弧があった。おそらくこれは、存在の確証がいま1つない、幻のオホーツク古陸の端なのであろう。本研究者は、黒鉱鉱床の生成には縁海の拡大が不可欠である、と主張してきた。斜里-標津の東側に、日本海とは異なる縁海があった可能性がでてきた。 当初の研究主題は、初期火山活動にともなう角閃石安山岩の記載岩石学の予定だった。この課題も進捗した。しかし、それ以上に、幻のオホーツク古陸の端を捕まえた成果は大きい。
|